電気自動車の電力インフラストラクチャの CAD 図面を扱うエンジニア。

TE の視点

EV を進歩させる隠れたイノベーション

著者: Qiong Sun、Automotive E-Mobility Global VP

電気自動車は、もはやアーリーアダプターためのニッチな選択肢ではなくモビリティの未来そのものです。 EV は自動車市場で最も急成長を遂げているセグメントであり、2021 年には全世界の販売台数が倍になっています[1]。政府および自動車メーカーが、今後 10~15 年間以内で新車販売台数のうち40%、50%、さらに 100% をEVにするという高い目標を掲げており、この急成長は今後も続くと見られています。

 

電気自動車を造り出す基本的な技術は既に実証済みであり、EV 革命を推進するイノベーションは、派手なものではなくなりました。現在フォーカスされているのは、引き続き性能を向上させながらコストの削減と製造効率の改善を図ることにあります。最も優先されているのは、充電時間の短縮、バッテリとモータの性能向上など、運転者が求めるトルク・速度・航続距離・信頼性に応えることです。これらの課題に取り組むには、充電ステーションからバッテリ
パックへ、そしてバッテリからモータへ、また他のあらゆる電気システムへという電子の動きを最適化するための、自動車の電気アーキテクチャを理解することが必要です。

 

TE Connectivity (以下TE)は、20 年以上にわたって自動車メーカーと協業し、進化する EV 市場の需要に独自に適合した電子部品を製造してきました。EV の設計方法は各メーカー毎に異なりますが、当社では必要な部分に、カスタマイズされた
EV ソリューションを提供するというアプローチを取り、同時に EV 市場の可能性を最大限にまで高められるよう、業界全体の目標である性能向上とコスト削減の実現を目指しています。

超急速充電の需要に応えるために

充電時間の短縮は、EV のさらなる普及を促進する重要な要因であり、高電圧、高電流の充電インフラストラクチャの発展を促しています。 TE のエンジニアは、350 キロワットの電力を 500 A で供給できる、高性能な充電インレットをリリースしました。現在は、640 キロワットの電力に対応できる、超高電流 DC 充電インレットを開発中です。これにより、200 マイルの航続距離分を約 10 分で充電できます。より高速かつ安全に充電できることで、充電ステーションでの待ち時間が短縮されます。

 

EV 設計者にとっての課題は、車両が超急速充電の課題に対応できるようにすることです。充電インレットからコネクタ、配線、バッテリ
コンタクタに至るまで、あらゆる部品は、高電圧の急速充電に伴う高温に対応できるように設計する必要があります。各EV メーカーは、熱管理に対応するためのそれぞれのテクノロジーを持っています。TE では、流体ベース冷却と高度な温度モニタリング技術などの、パッシブおよびアクティブ冷却システム用のコンポーネントを提供しています。

 

急速充電に対する需要により、充電インレットの摩耗と損傷の可能性も高まります。特に、塩分、汚れ、その他の研磨剤などにさらされる公共の充電ステーションでは、その可能性は高くなります。電気端子の劣化は、エネルギー転送効率の低下につながるおそれがあり、結果として充電時間が伸びます。これに対応して、TE のエンジニアは、よく見過ごされがちな EV 充電の方程式である、金属めっき技術に重点を置いています。 

 

TE の新たな EV 充電インレット向け TENDUR 表面めっき技術では、銀とグラファイトの革新的な組み合わせを使用して、内蔵のグラファイト粒子による潤滑を備えた強力な導電率の性能を発揮します。この最先端のコンタクトめっきは、優れた耐摩耗性を提供し、車両の耐用年数全体を通して継続的な高性能充電能力を実現します。TENDUR は、性能を維持するまま、充電できる耐久回数は 50,000 サイクルです。これは、従来のコーティングを施した標準的な充電インレットの 10,000 サイクルの寿命の 5 倍です。

次世代 EV パワートレインの接続性のウェビナー

充電インレットからバッテリを通って E モータへ

次世代 EV パワートレインの接続性のウェビナー

充電インレットからバッテリを通って E モータへ

バッテリ性能の向上と寿命の延長を実現

バッテリの性能は EV のさらなる普及における重要な要素です。  自動車の所有者は充電間の航続距離を最大限伸ばし、バッテリの交換が必要になる前にできるだけ長く持続するようにしたいと考えています。これらの要求を満たすには、運転者の目には見えない、別のレベルの革新が必要になります。

 

バッテリの寿命は、車両内の複数のサブシステムとコンポーネントによって変わります。より長寿命を実現するには、車両の通常の走行モード中にバッテリを安全にオンおよびオフにし、バッテリの損傷の原因となる異常な状態から保護する必要があります。TE の高電圧コンタクタは、この安全システムに欠かせない一部であり、バッテリ間を切り替えたり、短絡または過度な電流負荷の発生時にバッテリを完全に遮断する方法を可能にしています。さらに、これらの電力損失を防ぐための低抵抗端子を持つコンタクタと、バッテリパックの過熱を防ぐためのバッテリ管理システムを組み合わせることで、車両の耐用年数までバッテリを保つことができます。

自動車エンジニアは電気自動車の電力インフラストラクチャを点検しています。

持続可能性と規模考慮した設計

EV メーカーがより強力で効率的な車両の開発に取り組んでいますが、環境面での持続可能性という、EVのドライバーにとってもう 1 つの重要な関心事にも考えなければなりません。 EV 製造プロセスにおける水と電力の消費と、金属の過度な使用に関する懸念は、EV 業界の持続可能性についてを考える際、メーカーにとって非常に大きな問題となっています。 

 

TE は、高電圧 EV コネクタ用に開発されたGreenSilver と呼ばれる接点表面技術などの革新とともに、この取り組みに尽力しています。GreenSilver では、接続面の一部にのみ銀を使用することで、従来のコネクタよりも貴金属の使用量を削減しながら、 EV パワートレインに必要な電力性能、より高い耐振動性および耐熱性を提供します。また、独自の非ガルバニック式乾燥めっきプロセスでは、有害物質を使用せず、製造中の CO2 排出量や淡水使用量の削減をしています。 

 

EV 需要の高まりは、メーカーが新たなモデルの市場投入に無駄な時間がかけられないことも意味します。高級車からトラックおよびエントリ
レベルのモデルまで、あらゆる車種開発には、電気アーキテクチャ内の微調整が必要となります。TE では、電気モビリティ
ソリューションをプラットフォームとして設計しており、これにより同じ標準設計テンプレート内で必要な箇所にカスタマイズを可能とし、開発プロセスの短縮化を図っています。ユーザーが異なる状況で潜在的な製品をテストおよび評価できる、製品のシミュレーション技術も提供しており、製造に入る前にその設計手法が効率的で信頼性が高いことを確認できます。

 

このようなイノベーションのペースを維持することは、EV 産業が大衆市場の規模に到達するために不可欠です。TE では、電気自動車の時代に向けて、必要な、性能、効率性、信頼性の向上を実現するよう、メーカーを支援することに全力を注いでいます。

著者について

Qiong Sun, Global Vice President, Automotive E-mobility

Qiong Sun

Qiong Sun はTE のAutomotive事業部にてE-Mobility事業のGlobal VPとして、Automotive E-Mobilityに関する製品ポートフォリオや技術戦略、そして今後必要となるソリューションを統括しています。TE への入社前は、Qiong は Lear Corporation のグローバル電動化部門のVPを務め、製品開発とプログラムの立ち上げのほか、事業の技術戦略および成長戦略を担当していました。また、トランスポーテーションにおいて30 年以上の経験を持ち、車両の電動化、エネルギー貯蔵、アクティブ セーフティに特化した、多様な業界でのコンサルティング経験があります。

参考文献

[1] https://www.iea.org/commentaries/electric-cars-fend-off-supply-challenges-to-more-than-double-global-sales