回転ジョイントの狭域において、高速データ速度および高セキュリティのデータ伝送に対応する近傍界 2.4 GHz リング アンテナ

要約

今日の監視カメラには、回転式カメラから監視インフラへの電力リンクおよびデータ リンクのどちらにも、スリップ リングが使われています。スリップ リングには信頼性に問題があり、取り付けも複雑です。そこで、信頼性を高め、複雑さを解消するために非接触型の電力・データ リンク ソリューションが必要とされています。カメラ用非接触電力は、狭域に対応する誘導結合によって実現できますが、データ リンクにはいくつかの課題があります。H.264 の高解像度ビデオ ストリームを確実に伝送するためには、少なくとも 54 Mbps の転送速度を備えた WiFi プロトコルが提案されています。ただし、カメラの回転中にこのような高速データ速度を達成するには、360 度の全周回転にわたって、受信アンテナの優れた信号受信を達成する必要があります。また、高度なセキュリティのレベルを達成するには、信号漏れを一定レベル以下に維持して、近辺の傍受デバイスによって映像が取得されないようにする必要があります。つまり、反射損失は小さく (S11)、受信信号比は大きく (S12)、リーク信号 P_leak が低い、設計において多少矛盾するアンテナを開発する必要があります。高周波電磁界シミュレーション ツール ANSYS HFSS を使用することにより、円偏波の 2.4 GHz 帯リング近傍界アンテナを開発できます。提案アンテナは、マイクロストリップ送電路のリングと RF 負荷で構成されます。送電路を RF 50 Ω の抵抗器に結線することにより、アンテナは進行波アンテナとして機能します。これは全方向性の円偏波アンテナです。測定結果の最低値の場合、提案アンテナのインピーダンス帯域幅は、反射損失 S11 (= -15 dB)、受信信号強度比 S12 (= -26 dB) です。ファイ (θ) = 0° ~ 180° に対応する全周回転中に運用可能な 2.4 ~ 2.49 GHz 帯に対応する捕捉信号比は、P_tx (= -56 dB) です。測定結果の最低値において、反射損失 S11 (= -8 dB)、受信信号強度比 S12 (= - 37 dB)、捕捉信号比 P_tx (= -35 dB) である従来の共振アンテナと比較すると、提案アンテナでは反射損失が 7dB、受信信号が 11 dB、リーク信号が 21 dB 向上します。測定結果では、その利点も確認されます。このアンテナは、2 本のアンテナ間でビデオ信号が効率的に送受信される場合に、非接触型電力供給を使用するワイヤレス カメラに適用することができます。 また、周囲に対する信号リークも非常に少なく、情報の安全性が保証されます。このように、監視カメラの信頼性と安全性のどちらも確実に達成することができます。

非接触電力を使用するワイヤレス カメラ用アンテナの設計における課題を次に示します。

  1. スペースが限られていること。アンテナの幅は、最大でわずか 6 mm です。アンテナは、非接触型電力供給に使用される誘導コイルから少なくとも 4 mm 離れている必要があります。
  2. カメラは軸の周りを回転して周囲を監視するため、送信アンテナが回転しているときは、受電力が一定である必要があります。従来のアンテナの場合、次のような理由によりこの要件を満たすことは困難です。
  • 受電力は、送信アンテナ (Tx) と受信アンテナ(Rx) 間の距離の二乗に反比例する。
  • 送信アンテナ (Tx) と受信アンテナ(Rx) は直線偏波であり、Tx アンテナが回転すると偏波の不整合が発生する。

3.監視カメラの利用者側の要件として、アンテナによって周囲に放射されるリーク電力を最小限にして、標準アンテナが通信信号を傍受できないようにする必要がある。

 

このような理由から、幅が狭く、電磁場の電力を近辺に集中させ、長さにそって均一に分散するアンテナを設計する必要があります。また、回転中に 2 本のアンテナ間の偏波の不整合を回避するには、アンテナが円偏波である必要があります。これらの問題と取り組むため、ANSYS HFSS を使用して、幅の狭いマイクロストリップ伝送路でリング アンテナを構成し、RF 50 Ω の抵抗器を開発します。シミュレーションに基づくアンテナ試作品の測定結果では、利用者の要件を満たすことが実証されました。

ANSYS HFSS のシミュレーション モデル作成および試作品の組み立て

アンテナのシミュレーション モデルは、ANSYS HFSS 環境で作成されています。提案アンテナの形状を図 1 の (a) と (b) に示します。アンテナの本体は、RF 50 Ω の抵抗器に結線された円形のマイクロストリップ伝送路です。マイクロストリップ伝送路には、厚さ (d) 0.762 mm の低コスト FR4 基材の片面に印刷された幅 W1 の導体箔が形成され、基材の他の片面に幅 W2 (6 mm) の導体箔が形成されています。FR4 基材の内円半径 (R1) は 50 mm、外円半径 (R2) は 60.5 mm です。マイクロストリップ伝送路の一端に信号源として集中ポートを適用します。ポートのインピーダンスは 50 Ωです。伝送路のもう一方の端には、50 Ω の集中抵抗器が形成されています。

計算式
提案アンテナの形状

図 1. 提案アンテナの形状: (a) 平面図および (b) 断面図。

計算式 (1) から、提案マイクロストリップ伝送路 W1 の信号トレースの幅が決定されます。計算値は、EM シミュレーション ソフトウェアによって最適化する必要があります。図 2 は、提案アンテナの試作品です。SMA コネクタを備えたリジッド ケーブルは、円形のマイクロストリップ伝送路の一端に接続され、RF 負荷は他の一端に接続されています。

提案アンテナの形状
図 2. 提案アンテナの形状

提案アンテナの性能

図 3 は、非接触電力リンクとデータ リンクを備えた監視カメラを HFSS 形式の簡略なシミュレーション モデルで表したものです。カメラは下部にあり、中央の金属シャフトの周囲を回転します。上部は、電源およびイメージ データ センタに固定されています。送電回路と PTx コイルで構成された電力送信機 (PTx) およびワイヤレス回路とアンテナ Rx で構成された WiFi 受信機は、上部に収納されています。電力受信機 (PRx) と WiFi 送信機は、下部に位置しています。構成上、PTx コイルと PRx コイルは非接触型電力供給を目的として使用されます。コイルはアンテナ性能に影響を与えるので、シミュレーション モデルにはコイルを必ず配置します。

 

繰り返し測定のコストと時間を削減するため、アンテナは、HFSS によるシミュレーションを通じて研究・設計されています。アンテナの優れた性能が確認された時点で、アンテナの試作品が作成され、シミュレーションを検証します。この設計では、2 つの試作品を作成して、Keysight ベクトル ネットワーク アナライザ E5071C および Satimo 32 プローブ無響室を使って試験が行われます。
 

ワイヤレス カメラの構造

図 3. ワイヤレス カメラの構造: (a) 平面図、(b) 断面図 (ファイ (θ) = 0° は、断面図において重なり合う 2 本のアンテナの給電点の位置を示します)。

図 4 は、アンテナとその周囲における電力の分散関係を示しています。P_tx はアンテナへの入力電力、P_rx はアンテナ Rx が受け取る受電力、P_leak は周囲へのリーク電力、そして P_capture は、ワイヤレス カメラから 30 cm 離れた仮想の標準ダイポール アンテナが受け取る受電力を表します。これらのパラメータの中で、P_capture と P_leak の関係は
                                P_capture = P_leak + 伝送路ロス 30 cm です。                                              (2)

 

伝送路ロスの計算式

 

電力の分散関係

図 4. アンテナと周囲における電力の分散関係

図 5 は、アンテナの反射損失のシミュレーションと測定結果を示します。S11 は、2.4 ~ 2.49 GHz の運用帯において反射損失が -15 dB より小さく、回転角ファイ (ϕ) 0°、90°、180° では定数であることがわかります。これは、全周回転中、アンテナに優れた整合性があることを示唆しています。

提案アンテナの反射損失

図 5. 回転中のカメラにおける提案アンテナの反射損失

図 6 (a) は、Rx アンテナが受け取る受電力、図 6 (b) は、30 cm 離れた標準ダイポール アンテナがとらえる捕捉電力を表します。測定結果の最低値では、アンテナ Tx からアンテナ Rx が受け取る最小電力は -26 dB、仮想の標準アンテナがとらえる最大捕捉電力は -56 dB です。受電力は、仮想の標準アンテナがとらえる捕捉電力より 30 dB 大きくなっています。また、ワイヤレス カメラの下部が軸の周囲を回転する場合、P_rx の変数は小さくなります。P_tx を -35 dBmに設定し、さらに P_rx を -60 dBm、P_capture を -91 dBm に設定すると、システムは傍受されるリーク電力を最少限に抑えた優れたワイヤレス通信を確立します。

提案アンテナによる受電力。

図 6. (a) P_tx によって正規化された提案アンテナによる受電力、(b) P_tx によって正規化された仮想標準アンテナによる捕捉電力。

従来型アンテナとの比較

このような用途で市場に流通している WiFi アンテナの大半は、ダイポール アンテナ、IFA、PIFA などの従来型共振アンテナです。提案アンテナは従来のアンテナより性能面で優れていることを立証するため、図 7 の [2] に示される 2.4 ~ 2.49 GHz 帯に対応する運用周波数を備えたダイポール アンテナは、図 3 と同じカメラ モデルの提案アンテナと入れ代えられており、比較のためにシミュレーションの結果が導出されます (モデルでは、上部および下部のカバーは非表示です)。

2 本のダイポール アンテナを使ったワイヤレス カメラ

図 7. 2 本の通信用ダイポール アンテナを使ったワイヤレス カメラ (ファイ (θ) = 0° は、断面図において重なり合う 2 本のアンテナの給電点の位置を示します)。

シミュレーションの結果から、ダイポール アンテナは近傍界アンテナではないことがわかります。したがった、図 8 に示されるように、回転中に近傍界で操作する場合、優れたインピーダンス整合を達成できません。ファイ (θ) 0° から 180° まで回転中、反射損失は 3 dB 変化します。これは、全周回転において WiFi 受信回路との整合を困難にします。

ダイポール アンテナの反射損失

図 8. 回転中のワイヤレス カメラにおけるダイポール アンテナの反射損失

図 9 (a) は、アンテナ Tx の回転にともなう P_rx/P_tx の著しい変化を示しています。特に、ファイ (θ) が 0° から 180° まで変化すると、P_rx/P_tx は -5 dB から -35 dB まで大幅に減少します。これには次のような理由があります。

  1. アンテナ Tx が回転すると、中心間の距離の変化に対応して 2 本のアンテナ間の伝送路ロスが著しく変化する。
  2. ダイポール アンテナは直線偏波であり、アンテナ Tx が回転すると偏波の不整合が発生する。

図 9 (b) は、ダイポール アンテナが周囲に放射する捕捉リーク電力の最大値は -35 dB であり、提案アンテナより 21 dB 大きいことを示しています。その理由は、従来型ダイポール アンテナが共振遠方界アンテナであり、本質的に遠方界放射に適しているためです。したがって、異なる種類の共振遠方界アンテナも、安全上の理由から低捕捉電力を要件とする狭域の高速データリンクでは実用性がありません。

提案アンテナによる受電力。

図 9. (a) P_tx によって正規化されたダイポール アンテナによる受電力、(b) P_tx によって正規化された仮想標準アンテナによる捕捉電力。

まとめ

近傍界円偏波リング アンテナは、ANSYS HFSS シミュレーション ツールを使用して開発され、試作品の測定値が検証されました。アンテナは、RF 50 Ω の抵抗器に結線された円形のマイクロストリップ伝送路です。提案アンテナは、2.4 ~ 2.49 GHz の運用帯において優れたインピーダンス整合を達成することができます。これは、優れたデータ リンクおよび周囲に対する低リークを示す、シミュレーションおよび測定結果によって実証されます。監視カメラをはじめ、自動装置や自律車両のビデオ ストリームを使用する設備と用途が増大する中で、提案アンテナは、高速データ速度および高セキュリティのデータ リンク用途に対応する有望なソリューションとなります。


また、このアンテナは進行波アンテナであり、近傍界電界および磁場は近傍界円偏波の表面にそって均一に分散され、回転中に安定したデータ リンクが提供されます。したがって、提案アンテナは、広い周波数帯域において優れた安全性と信頼性を備えた、スリップ リングに代わる優れたアンテナと言えます。

今後の研究および作業

シミュレーションおよび試作品試験からアンテナ性能を確認後、WiFi チップセットおよび基板上の非接触型電力供給モジュールでアクティブ テストが行われ、アンテナとシステムの性能を検証します。


家電製品、産業機器などの分野には、近傍界アンテナの幅広い用途があります。提案アンテナは、非接触型電力供給を使用する回転装置に最適です。今後の研究と作業は、アンテナ性能の最適化および、リーク電力を削減して傍受を防止するシステム用シールドの設計です。

参考文献

[1] David M. Pozar 著『Microwave Engineering, Fourth Edition』149 ページ、John Wiley & Sons, Inc. 出版
[2] Ramesh Garg、Prakash Bhartia、Inder Bahl、Apisak Ittipiboon 共著 『Microstrip Antenna Design Handbook』399 ページ、Artech House 出版
 

回転ジョイントの狭域において、高速データ速度および高セキュリティのデータ伝送に対応する近傍界 2.4 GHz リング アンテナ

要約

今日の監視カメラには、回転式カメラから監視インフラへの電力リンクおよびデータ リンクのどちらにも、スリップ リングが使われています。スリップ リングには信頼性に問題があり、取り付けも複雑です。そこで、信頼性を高め、複雑さを解消するために非接触型の電力・データ リンク ソリューションが必要とされています。カメラ用非接触電力は、狭域に対応する誘導結合によって実現できますが、データ リンクにはいくつかの課題があります。H.264 の高解像度ビデオ ストリームを確実に伝送するためには、少なくとも 54 Mbps の転送速度を備えた WiFi プロトコルが提案されています。ただし、カメラの回転中にこのような高速データ速度を達成するには、360 度の全周回転にわたって、受信アンテナの優れた信号受信を達成する必要があります。また、高度なセキュリティのレベルを達成するには、信号漏れを一定レベル以下に維持して、近辺の傍受デバイスによって映像が取得されないようにする必要があります。つまり、反射損失は小さく (S11)、受信信号比は大きく (S12)、リーク信号 P_leak が低い、設計において多少矛盾するアンテナを開発する必要があります。高周波電磁界シミュレーション ツール ANSYS HFSS を使用することにより、円偏波の 2.4 GHz 帯リング近傍界アンテナを開発できます。提案アンテナは、マイクロストリップ送電路のリングと RF 負荷で構成されます。送電路を RF 50 Ω の抵抗器に結線することにより、アンテナは進行波アンテナとして機能します。これは全方向性の円偏波アンテナです。測定結果の最低値の場合、提案アンテナのインピーダンス帯域幅は、反射損失 S11 (= -15 dB)、受信信号強度比 S12 (= -26 dB) です。ファイ (θ) = 0° ~ 180° に対応する全周回転中に運用可能な 2.4 ~ 2.49 GHz 帯に対応する捕捉信号比は、P_tx (= -56 dB) です。測定結果の最低値において、反射損失 S11 (= -8 dB)、受信信号強度比 S12 (= - 37 dB)、捕捉信号比 P_tx (= -35 dB) である従来の共振アンテナと比較すると、提案アンテナでは反射損失が 7dB、受信信号が 11 dB、リーク信号が 21 dB 向上します。測定結果では、その利点も確認されます。このアンテナは、2 本のアンテナ間でビデオ信号が効率的に送受信される場合に、非接触型電力供給を使用するワイヤレス カメラに適用することができます。 また、周囲に対する信号リークも非常に少なく、情報の安全性が保証されます。このように、監視カメラの信頼性と安全性のどちらも確実に達成することができます。

非接触電力を使用するワイヤレス カメラ用アンテナの設計における課題を次に示します。

  1. スペースが限られていること。アンテナの幅は、最大でわずか 6 mm です。アンテナは、非接触型電力供給に使用される誘導コイルから少なくとも 4 mm 離れている必要があります。
  2. カメラは軸の周りを回転して周囲を監視するため、送信アンテナが回転しているときは、受電力が一定である必要があります。従来のアンテナの場合、次のような理由によりこの要件を満たすことは困難です。
  • 受電力は、送信アンテナ (Tx) と受信アンテナ(Rx) 間の距離の二乗に反比例する。
  • 送信アンテナ (Tx) と受信アンテナ(Rx) は直線偏波であり、Tx アンテナが回転すると偏波の不整合が発生する。

3.監視カメラの利用者側の要件として、アンテナによって周囲に放射されるリーク電力を最小限にして、標準アンテナが通信信号を傍受できないようにする必要がある。

 

このような理由から、幅が狭く、電磁場の電力を近辺に集中させ、長さにそって均一に分散するアンテナを設計する必要があります。また、回転中に 2 本のアンテナ間の偏波の不整合を回避するには、アンテナが円偏波である必要があります。これらの問題と取り組むため、ANSYS HFSS を使用して、幅の狭いマイクロストリップ伝送路でリング アンテナを構成し、RF 50 Ω の抵抗器を開発します。シミュレーションに基づくアンテナ試作品の測定結果では、利用者の要件を満たすことが実証されました。

ANSYS HFSS のシミュレーション モデル作成および試作品の組み立て

アンテナのシミュレーション モデルは、ANSYS HFSS 環境で作成されています。提案アンテナの形状を図 1 の (a) と (b) に示します。アンテナの本体は、RF 50 Ω の抵抗器に結線された円形のマイクロストリップ伝送路です。マイクロストリップ伝送路には、厚さ (d) 0.762 mm の低コスト FR4 基材の片面に印刷された幅 W1 の導体箔が形成され、基材の他の片面に幅 W2 (6 mm) の導体箔が形成されています。FR4 基材の内円半径 (R1) は 50 mm、外円半径 (R2) は 60.5 mm です。マイクロストリップ伝送路の一端に信号源として集中ポートを適用します。ポートのインピーダンスは 50 Ωです。伝送路のもう一方の端には、50 Ω の集中抵抗器が形成されています。

計算式
提案アンテナの形状

図 1. 提案アンテナの形状: (a) 平面図および (b) 断面図。

計算式 (1) から、提案マイクロストリップ伝送路 W1 の信号トレースの幅が決定されます。計算値は、EM シミュレーション ソフトウェアによって最適化する必要があります。図 2 は、提案アンテナの試作品です。SMA コネクタを備えたリジッド ケーブルは、円形のマイクロストリップ伝送路の一端に接続され、RF 負荷は他の一端に接続されています。

提案アンテナの形状
図 2. 提案アンテナの形状

提案アンテナの性能

図 3 は、非接触電力リンクとデータ リンクを備えた監視カメラを HFSS 形式の簡略なシミュレーション モデルで表したものです。カメラは下部にあり、中央の金属シャフトの周囲を回転します。上部は、電源およびイメージ データ センタに固定されています。送電回路と PTx コイルで構成された電力送信機 (PTx) およびワイヤレス回路とアンテナ Rx で構成された WiFi 受信機は、上部に収納されています。電力受信機 (PRx) と WiFi 送信機は、下部に位置しています。構成上、PTx コイルと PRx コイルは非接触型電力供給を目的として使用されます。コイルはアンテナ性能に影響を与えるので、シミュレーション モデルにはコイルを必ず配置します。

 

繰り返し測定のコストと時間を削減するため、アンテナは、HFSS によるシミュレーションを通じて研究・設計されています。アンテナの優れた性能が確認された時点で、アンテナの試作品が作成され、シミュレーションを検証します。この設計では、2 つの試作品を作成して、Keysight ベクトル ネットワーク アナライザ E5071C および Satimo 32 プローブ無響室を使って試験が行われます。
 

ワイヤレス カメラの構造

図 3. ワイヤレス カメラの構造: (a) 平面図、(b) 断面図 (ファイ (θ) = 0° は、断面図において重なり合う 2 本のアンテナの給電点の位置を示します)。

図 4 は、アンテナとその周囲における電力の分散関係を示しています。P_tx はアンテナへの入力電力、P_rx はアンテナ Rx が受け取る受電力、P_leak は周囲へのリーク電力、そして P_capture は、ワイヤレス カメラから 30 cm 離れた仮想の標準ダイポール アンテナが受け取る受電力を表します。これらのパラメータの中で、P_capture と P_leak の関係は
                                P_capture = P_leak + 伝送路ロス 30 cm です。                                              (2)

 

伝送路ロスの計算式

 

電力の分散関係

図 4. アンテナと周囲における電力の分散関係

図 5 は、アンテナの反射損失のシミュレーションと測定結果を示します。S11 は、2.4 ~ 2.49 GHz の運用帯において反射損失が -15 dB より小さく、回転角ファイ (ϕ) 0°、90°、180° では定数であることがわかります。これは、全周回転中、アンテナに優れた整合性があることを示唆しています。

提案アンテナの反射損失

図 5. 回転中のカメラにおける提案アンテナの反射損失

図 6 (a) は、Rx アンテナが受け取る受電力、図 6 (b) は、30 cm 離れた標準ダイポール アンテナがとらえる捕捉電力を表します。測定結果の最低値では、アンテナ Tx からアンテナ Rx が受け取る最小電力は -26 dB、仮想の標準アンテナがとらえる最大捕捉電力は -56 dB です。受電力は、仮想の標準アンテナがとらえる捕捉電力より 30 dB 大きくなっています。また、ワイヤレス カメラの下部が軸の周囲を回転する場合、P_rx の変数は小さくなります。P_tx を -35 dBmに設定し、さらに P_rx を -60 dBm、P_capture を -91 dBm に設定すると、システムは傍受されるリーク電力を最少限に抑えた優れたワイヤレス通信を確立します。

提案アンテナによる受電力。

図 6. (a) P_tx によって正規化された提案アンテナによる受電力、(b) P_tx によって正規化された仮想標準アンテナによる捕捉電力。

従来型アンテナとの比較

このような用途で市場に流通している WiFi アンテナの大半は、ダイポール アンテナ、IFA、PIFA などの従来型共振アンテナです。提案アンテナは従来のアンテナより性能面で優れていることを立証するため、図 7 の [2] に示される 2.4 ~ 2.49 GHz 帯に対応する運用周波数を備えたダイポール アンテナは、図 3 と同じカメラ モデルの提案アンテナと入れ代えられており、比較のためにシミュレーションの結果が導出されます (モデルでは、上部および下部のカバーは非表示です)。

2 本のダイポール アンテナを使ったワイヤレス カメラ

図 7. 2 本の通信用ダイポール アンテナを使ったワイヤレス カメラ (ファイ (θ) = 0° は、断面図において重なり合う 2 本のアンテナの給電点の位置を示します)。

シミュレーションの結果から、ダイポール アンテナは近傍界アンテナではないことがわかります。したがった、図 8 に示されるように、回転中に近傍界で操作する場合、優れたインピーダンス整合を達成できません。ファイ (θ) 0° から 180° まで回転中、反射損失は 3 dB 変化します。これは、全周回転において WiFi 受信回路との整合を困難にします。

ダイポール アンテナの反射損失

図 8. 回転中のワイヤレス カメラにおけるダイポール アンテナの反射損失

図 9 (a) は、アンテナ Tx の回転にともなう P_rx/P_tx の著しい変化を示しています。特に、ファイ (θ) が 0° から 180° まで変化すると、P_rx/P_tx は -5 dB から -35 dB まで大幅に減少します。これには次のような理由があります。

  1. アンテナ Tx が回転すると、中心間の距離の変化に対応して 2 本のアンテナ間の伝送路ロスが著しく変化する。
  2. ダイポール アンテナは直線偏波であり、アンテナ Tx が回転すると偏波の不整合が発生する。

図 9 (b) は、ダイポール アンテナが周囲に放射する捕捉リーク電力の最大値は -35 dB であり、提案アンテナより 21 dB 大きいことを示しています。その理由は、従来型ダイポール アンテナが共振遠方界アンテナであり、本質的に遠方界放射に適しているためです。したがって、異なる種類の共振遠方界アンテナも、安全上の理由から低捕捉電力を要件とする狭域の高速データリンクでは実用性がありません。

提案アンテナによる受電力。

図 9. (a) P_tx によって正規化されたダイポール アンテナによる受電力、(b) P_tx によって正規化された仮想標準アンテナによる捕捉電力。

まとめ

近傍界円偏波リング アンテナは、ANSYS HFSS シミュレーション ツールを使用して開発され、試作品の測定値が検証されました。アンテナは、RF 50 Ω の抵抗器に結線された円形のマイクロストリップ伝送路です。提案アンテナは、2.4 ~ 2.49 GHz の運用帯において優れたインピーダンス整合を達成することができます。これは、優れたデータ リンクおよび周囲に対する低リークを示す、シミュレーションおよび測定結果によって実証されます。監視カメラをはじめ、自動装置や自律車両のビデオ ストリームを使用する設備と用途が増大する中で、提案アンテナは、高速データ速度および高セキュリティのデータ リンク用途に対応する有望なソリューションとなります。


また、このアンテナは進行波アンテナであり、近傍界電界および磁場は近傍界円偏波の表面にそって均一に分散され、回転中に安定したデータ リンクが提供されます。したがって、提案アンテナは、広い周波数帯域において優れた安全性と信頼性を備えた、スリップ リングに代わる優れたアンテナと言えます。

今後の研究および作業

シミュレーションおよび試作品試験からアンテナ性能を確認後、WiFi チップセットおよび基板上の非接触型電力供給モジュールでアクティブ テストが行われ、アンテナとシステムの性能を検証します。


家電製品、産業機器などの分野には、近傍界アンテナの幅広い用途があります。提案アンテナは、非接触型電力供給を使用する回転装置に最適です。今後の研究と作業は、アンテナ性能の最適化および、リーク電力を削減して傍受を防止するシステム用シールドの設計です。

参考文献

[1] David M. Pozar 著『Microwave Engineering, Fourth Edition』149 ページ、John Wiley & Sons, Inc. 出版
[2] Ramesh Garg、Prakash Bhartia、Inder Bahl、Apisak Ittipiboon 共著 『Microstrip Antenna Design Handbook』399 ページ、Artech House 出版