LiDAR センサのホワイトペーパー

ホワイト ペーパー

センサについて理解する

LiDAR 設計者のための自動車/モビリティ システムのセンサ技術ガイド

オレンジ色区切り線

現在、LiDAR システムの用途は新たな分野にまで広がりを見せ、従来のセキュリティ分野だけにとどまらず、マップ処理や産業オートメーションにも利用されています。 今、大きな注目を集め、発展著しい分野の 1 つがモビリティ市場です。LiDAR スキャナは自動運転車のプロトタイプ システムにおいてだけでなく、適応走行制御 (ACC)、衝突防止システム、交通標識認識、死角検出、車線逸脱警告における現在のシステムに欠かせない構成部品です。 これらの LiDAR ベース システムすべてが必要とする重要な部品が、システムの「目」の役割を果たすセンサです。このホワイトペーパーでは、LiDAR システムの OEM (相手先商標製造会社) に従事する設計エンジニアを対象に、さまざまなセンサ技術をどのように使い分けるかについて、詳しく見ていきます。

背景

モビリティの光検出・測距 (LiDAR) システムには、環境を素早く確実に検知し、周囲の状況と前方の道路を、経済的に許す限り詳細に図化する能力が求められます。 それだけではありません。高速走行する自動車に搭載されたシステムは、少なくとも 150 m (約 500 フィート) 先は「見えている」必要があり、わずか 10 cm (約 4 インチ) ほどの高さの物体であっても検知できなければなりません。

このように、システムのセンサには、いくつもの厳しい技術的条件が要求されます。 

このミッションには、保証された機能的安全性および環境認定を備えた、相補的でありながら独立したセンサ システムが求められます。 たとえば、ユニットには -40 ~ 125 °C (-40 ~ 257 °F) の動作温度への適格性が求められます。環境温度だけでなく、他のシステム コンポーネントからの熱にも対応するためです。また、雑多な背景の中から目的の信号を区別して「見る」には、最適な SN 比も必要です。さらに、光検出器はさまざまなレベルの環境光に対応しなければならないため、センサには幅広いダイナミック レンジも求められます。 

(「検出器」という用語は通常、光電子を検出する素子だけを指しますが、「センサ」には検出器だけでなく、コネクティビティなどの機能を実現する隣接した電子部品も含まれます。   この 2 つの用語は同じ意味で使用される場合もあります) 


lidar scanning objects

LiDAR の使用

LiDAR システムの設計者は、基本的な物理学だけでなく、基本的な経済学も考慮しなければなりません。すべての車載コンポーネントには、最大限のコスト効率性が求められます。実用性の観点からは、最良のコストパフォーマンス比は最良の技術にも勝ります。長距離 LiDAR を使用する現行の自動車モビリティ システムは、すべて「スキャン型」デバイスであり、シーン全体に対してレーザー ビームを段階的に走査させます。現在の技術を使用した有効距離は 30 ~ 300 m (約 100 ~ 1,000 フィート) となります。ほぼすべてのシステムは、波長 905 nm のレーザー光に基づいて構築されています。不可視光線を放射し、低コストでの量産が可能であり、短パルスでハイパワーを使用することで (例: 5 ナノ秒パルスに対し 75 W ピークパワー)、最適なパワー対コスト比を実現します。このタイプのレーザーは、成熟した安価なシリコン検出器技術に幅広く使用されています。

最良のセンサ技術の選択

業界の進歩とともに、設計エンジニアは LiDAR モビリティ システムにさまざまなセンサ技術を導入してきました。以下に説明するように、どの技術にもそれぞれの良い点と悪い点があります。

シリコン PIN ダイオード検出器

シリコンベースの検出器であり、「P 型」「I 型 (真性)」「N 型」の 3 種類の半導体が層状に重ねられた構造を特徴とします。

良好なダイナミック レンジを示し、多様な光量を幅広く処理できます。たとえば、直射日光の下でも、遠くの物体からの反射光を検出できます。比較的安価であることも特徴です。

しかし、最新のモビリティ LiDAR システムに必要とされる高レベルの帯域幅、または SN 比性能を実現することはできません。さらに、感度と高速性もやや劣ります。

シリコン光電子増倍管 (SiPM)、単一光子アバランシェ ダイオード (SPAD) 検出器

これらのソリッドステート型シリコンベース センサは、もともと科学分野や医療分野における小型化および特殊化用途を想定して開発されたものです。最近では、より大規模な LiDAR 市場での展開も試みられています。

これらはAPD (後述) とほぼ同様に機能しますが、きわめて高い内部増幅または内部ゲインを実現するように最適化されており、ごくわずかな光量でも検出が可能です。しかも、非常に高速です。さらに、広く利用されている CMOS 技術とも互換性があるため、関連する電子部品と同一チップ上で組み合わせることができます。

ただし、単一光子カウンターの感度は、APD の感度をはるかに下回ります。そのため、高度な増倍に依存せざるを得ません。しかし、増倍の過程でノイズが加わることで、しばしば SN 比が大幅に低下する場合もあります。また、増幅機構が高温によって誤ってトリガーされやすいことも弱点です。そして、このタイプのセンサの最も深刻な欠点と思われるものが、高ゲインの代償として生じる飽和の問題です。

センサはまず、前方にある物体から反射されたレーザー光を処理する必要があります。さらに、多くの LiDAR システムでは、広視野のスキャナを規定しています。これにより、SIPM または SPAD センサに大量の光量が追加されることになります。また、強い日差し、ハイビームのヘッドライト、他の LiDAR システムなど、LiDAR モビリティ環境で日常的に遭遇するさまざまな現象により、光学フィルタを使用している場合であっても、センサが処理可能な光量の限界を超え、飽和してしまうことがあります。こうした弱点を補うための開発は続いており、これらのセンサは多くの場合、さまざまな LiDAR 用途向けに検討されます。しかし、現時点では、これらのタイプはこの飽和問題を始めとする、上述した数々の問題が足かせとなり、長距離 LiDAR のスキャンにおいて最適な検出器とみなされるには至っていません。




 

LiDAR 検出技術の比較

図 2: 検出技術の比較

InGaAs (インジウム・ガリウム・ヒ素) フォトダイオード検出器

これらのセンサは、通信用ガラス光ファイバに小型化して使用されることが多いものの、ミリタリ用途やエアロスペース用途を除き、LiDAR 分野ではまだ大きな実績はありません。この技術では、従来のシリコンベース構造の代わりに InGaAs 素材を採用しています。

より高いスペクトル (1,550 nm。ここで紹介している他のセンサは 905 nm) に対応するよう特別に構築されたレーザー システムであるため、設計上、より高い感度と出力を実現する必要があります。この結果、他のほとんどのセンサより長い距離をカバーする自動車 LiDAR システムを実現できます。

しかし、InGaAs 検出器の性能は、周囲温度が通常よりわずかに上昇しただけでも大幅に低下する場合があります。温暖な気候下であっても、センサに外部冷却システムが必要となる可能性があります。

さらに、このベース材料は、広く使用されているシリコン基材よりはるかに高額です。また、LiDAR 用途向けの大きなサイズで InGaAs センサを製造するとなると、シリコン設計より大幅に複雑な製造工程が必要とされます。現時点ではまだ、商用量産化には成功していません。

そして、InGaAs センサは自動車 LiDAR の分野では新しい技術であるため、InGaAs 検出器に対応する新たな LiDAR システムを開発するにあたり、OEM 各社は多大な時間、労力、コストを費やす覚悟が必要となります。

アバランシェ フォトダイオード (APD) 検出器

これらのシリコンベース光検出器は、もともと産業用途やミリタリ用途には最適であり、入射光子によって電荷のアバランシェ降伏を生じさせ、内部の増幅機構を利用してゲインを増倍します。最適な吸光を実現する構造により、反射した 905 nm レーザー光の 80% 以上を光電流に変換します。このしくみにより、感度が著しく高くなります。

突出した感度だけでなく、APD は最適な SN 比、最小限の飽和、優れた速度も特徴です。また、最も低価格で利用可能なセンサ技術の 1 つでもあります。

1 つ欠点と言えるのは、APD には特殊なバイポーラ技術が利用されていますが、これは一般的な CMOS 製法と互換性がありません。つまり、限られた数のサプライヤーからしか調達できないのです。関連する CMOS 電子部品と、同一チップ上で組み合わせることもできません。

ただし、経験豊富なサプライヤーであれば、近接させた複数のチップ上にセンサと電子部品を搭載したパッケージを製造できる場合もあります。いずれも、妥協することなく、クラス最高の性能を実現するように最適化できます。たとえば、APD センサ アレイを、ゲインと帯域幅をカスタマイズした特殊設計のトランスインピーダンス増幅器 (TIA) によって補完することで、光電流を電圧に変換し、システムに入射する信号から高ゲインが得られるように条件付けることができます。こうすることで、特に低照度の環境下での性能を最大化できます。

APD は十分に確立された、生産性の高い商用製造工程で生産され、すでに路上でも幅広いシステムにおいて実績があります。

基本的には、正しく扱えば、実証済みの性能を魅力的な価格で提供することができます。現時点では、APD は自動車用の長距離 LiDAR にとって最良の選択肢と言え、現在の数多くの最先端モビリティ システムにおいて欠かせない構成部品です。

アバランシェ フォトダイオード検出器

図3: アバランシェ フォトダイオード (APD) 検出器

最良のセンサ サプライヤの選択

最適なセンサ技術を選んだ後も、LiDAR システム設計者にはさらに、最適なセンサ サプライヤを選択するという課題が待ち受けています。

サプライヤの候補は慎重に評価する必要があります。そのセンサやシステムを、OEM の個々の要件や市場に適合させるための技術、能力、ノウハウを備えたサプライヤーでしょうか? OEM チームと密接に連携して設計、製造、スケジュールに対応し、市場投入を成功させることができるサプライヤーでしょうか?

経験へのこだわり

センサ ベンダーが開発、製造、車両認定、その他のプロセスを、求められる速度で対応できるまでに時間がかかるようであれば、LiDAR モビリティの OEM が最速の市場投入を目指す競争に勝つことはできません。

センサ サプライヤは、仕事をこなすことで経験を積んでいきます。優れたサプライヤ候補は、自分たちのセンサ技術や検出器技術を、すでにモビリティ用途に適合させています。  たとえば、APD の標準設計とカスタム設計、ダイ、パッケージ、モジュールの設計製造における標準化とカスタマイズ、クラス最高の電子部品などが挙げられます。  

理想的なサプライヤには実績があり、自動車グレードの APD や関連する電子部品が、すでに大手の LiDAR OEM に採用されています。

 

総合的な製造の評価

設計者は、雑音を最低限に抑える、感度を最大化するなど、関連する技術的利点を持つサプライヤを優先する必要があります。しかし、同時に、その領域の総合的な管理を維持するセンサ メーカに目を向けることも必要です。

チップの処理からセンサ システムの事前製造に至るまで、生産プロセス全体が一体となって遂行されなければなりません。中心的な構成部品をすべて社内製造することで、サプライヤはすべての OEM 製品が長期的に入手可能となることを保証でき、連続生産やアフターサービスにも対応できます。

カスタマイズ能力の確認

LiDAR システム メーカとして成功するには、ライバルのひしめき合う市場において、特定のシステムを他のすべてから差別化できるような、優れたコストパフォーマンス比を実現することが重要です。既製のセンサでは、目的にそぐわないこともあります。選択したシステム設計に正確に適合するように、構成部品をカスタマイズする必要があります。

システム メーカは、機敏性と応答性に優れたセンサ サプライヤを選ばなくてはなりません。多くの場合、サプライヤは OEM の設計者と協働し、センサや関連する電子部品をカスタマイズして、システムの他の部分と可能な限り密接に統合する必要があります。その結果として、最適な性能が実現されます。

このチームではたとえば、選択したレンズに合わせてセンサの形状を確立し、寸法を最適化する必要があります。また、個々の独自の光学設計仕様に合わせ、各種の調整を行います。最適なチャネル数 (いくつの信号を同時に受信するか) を決定し、スキャナの空間分解能を最大化する必要もあります。さらに、センサと電子部品間を可能な限り最短のインタフェースでつなぐパッケージをカスタマイズします。

最後に、優れたサプライヤであれば、マルチピクセルによる均質化など、センサ処理に関する高度な技術的利点の提供が期待されます。フォトダイオードが均質でなかったり、さまざまなサプライヤから供給されている場合、現実世界での使用において、外気温への反応がそれぞれ異なってしまいます。その場合、LiDAR スキャナの性能が著しく低下しかねません。マルチピクセルによる均質化が行われれば、ピーク距離であっても、信号情報が最大限緊密に分散されます。

最良のセンサ サプライヤの選択

優れたセンサ サプライヤであれば、「路上の規則」をすでに知っています。最新の車両認定、堅牢性の検証、特性評価の基準と法規制への対応について、すでに経験済みであるはずです。

これには、製造や試験に対する車両認定規格 ISO/TS 16949 や、自動車用に認定された APD アレイ実装のための AEC-Q 102 および 104 などが含まれます。サプライヤには、法規制を遵守し、システム OEM が責任を問われることがないように、これらの規格や他の関連する規格を、そのすべての構成部品や製造施設に適用することが求められます。

規制は、今後ますます増えていくことは間違いありません。サプライヤは Ford Motor Company が先駆的に開発した「Q プログラム」のような、厳格な自己認定など、文書化されたベストプラクティスによってコンプライアンスを実証する必要があります。

将来の要件にも対応するサポートを模索

また、サプライヤは品質と納入に関する確実な実績を示し、初期開発からメンテナンス サービスまで、強力なサポート体制が確立されていることを実証する必要があります。

システム設計の開始時点から、センサの設計を考慮しなければなりません。OEM がセンサ サプライヤを早い段階で関与させればそれだけ、設計および製造プロセス全体が迅速化し、容易になり、最終的な LiDAR システムの性能も高くなります。

最後に、変化の速いこの分野において、サプライヤには常に将来の開発を見据えることが求められます。めまぐるしい変化を続ける市場において、システム メーカの前進を助けるため、優れたセンサ メーカは将来的に予想される法規制、ビジネス、技術開発に即したイノベーション ロードマップを確立してくれるはずです。

まとめ

センサは、すべての LiDAR システムの目となります。センサの設計者は、競合するいくつものセンサ技術の中から適切なものを選択できます。性能と価格の最適な組み合わせを提供することに定評があるのは APD センサである、と考える設計エンジニアは多いでしょう。さらに、LiDAR システム メーカはセンサのサプライヤを選ぶにあたり、経験、カスタマイズ能力、車両認定に関する専門知識など、多くの要素を考慮しなければなりません。LiDAR や他のモビリティ技術が進化し続ける中、適切なセンサを選ぶことは、今後進むべき道を明確に指し示してくれます。

著者:

Dr. Marc Schillgalies (TE Connectivity)

Paul Sharman (TE Connectivity)