高速通信向けのコネクティビティ

TE の視点

高速通信向けのコネクティビティ
来たるIoTの世界を可能にする取組み

著者: Mike Tryson、VP 兼 CTO、データアンドデバイス事業部

5G セルラーや WiFi 6+ などの次世代ネットワークは、モノのインターネット (IoT) の新時代を切り開いています。 このような高信頼性かつ超高速ネットワークにより、これまで以上のハイスピードと大容量のデータを提供し、互いに接続された数百万台以上のデバイスをサポートできるようになります。そしてこれらのデバイスにより、スマートホームのように身近なものから、工場の自動化、遠隔医療モニタリング、車両運行テレマティクスなどのより高度な機能を必要とするものまで、あらゆる可能性が現実のものとなります。

 

M2M(Machine to Machine;マシーン・ツー・マシーン)
 通信は今後急速に拡大し、2023 年までにすべてのインターネット接続の
50% 以上を占めると考えられます。2027 年までに 410
億台の IoT デバイスが設置される見込みです。

 

しかし、IoTの可能性を最大限に発揮するために、高速な 5G ネットワークと WiFi 6+ ネットワークの双方を活用する堅牢なコネクティビティのエコシステムを構築する必要があります。このようなエコシステムには、特定のIoT用途に関連した様々な制約と要件に適したワイヤレス プロトコルのサポートも同時に求められます。そのために、広範囲の周波数を効率的に扱うことができる高度な多周波数帯アンテナ ソリューションを元に、デバイスとネットワークを設計する必要があります。これらは最終的に、様々な環境でデータを記録・伝達するためのより小型で耐久性のある組込みコンポーネントの作成、そしてワイヤレスネットワークに必要とされるデータ通信量の急速な増大に対応可能なインフラを必要としていきます。

 

TE Connectivity(以下TE)は、メジャーなハイパースケールおよびテレコム企業のコネクティビティとセンサのパートナーとして、お客様と協力して最も困難だと言われている設計上の課題解決に取り組んでいます。ここからIoT の急速な成長の可能性を実現するために、当社が取り組んでいる重要なイノベーションについてご紹介します。

高度なアンテナ設計

いつでもどこでもM2M通信を運用可能とするためには、組込みや外付けのワイヤレス アンテナの機能向上が新たに求められています。デバイスの設計者とエンジニアは、さまざまな IoT 用途のニーズに対応するために、アンテナを幅広い選択肢の中から選定できるようにする必要があります。 デバイスの設計者とエンジニアは、さまざまな IoT 用途のニーズに対応するために広範なアンテナ オプションを利用できる必要があります。


IoT アンテナ ソリューションの重要な機能の1つに、広い周波数帯域にわたって高性能を提供できることがあります。この帯域には、低周波数帯域の600 MHz LTE のセルラーから、5G ネットワークの6 GHz 以上までのあらゆる周波数が該当します。広い周波数帯域にわたって信号を効果的に捕捉するには、他の IoT 装置との干渉を防止するうえで十分な選択度と分離能力をアンテナ技術で実現する必要があります。

 

IoT エコシステムを構成する各アンテナは、その用途の性能要件に適合する必要もあります。たとえば、堅牢なネットワークがあって信号強度が強い場所に固定して設置された装置は、ダイポール
アンテナやブレード アンテナからのみで十分な性能を得ることができます。ネットワークの品質と信頼性が低下する場合でも、デバイスからの信号を確実にネットワークに到達させるためには、ほとんどの場合、どの方向からも電波の受信が可能な無指向性アンテナか、指向性アンテナが必要になります。

 

TEでは、このような課題に対応するために、複数の周波数帯域への対応と様々な IoT 用途の性能要件に対処できるアンテナ
ソリューションを幅広く用意しています。ハイスピード ネットワークの拡大とともに次世代のIoT イノベーションが創り出されるのに伴い、TE は、新分野で必要とされる周波数範囲とその設計要件に対処できるよう、アンテナ設計の開発体制を整え、皆さまのご要望に応じたカスタマイズを行っています。

IoT コネクティビティ向けソリューションを設計しているエンジニア。

ワイヤレス接続に役立つ IoT 技術

フォームファクタの向上

IoT の進化に伴い、高度な機能を備えたアンテナとセンサを、これまで以上に小型化したパッケージで提供することも必要になっています。 ウェアラブル端末、スマートホーム用制御パネル、インテリジェント トランスポーテーション向け追跡デバイスをはじめ、どのような分野でも小型化への要望が非常に高く、その傾向は今後も増えていくと思われます。

 

PCB (プリント基板) アンテナとFCB (フレキシブル基板) アンテナ分野でのイノベーションによって、スモールフォームファクタ用の高機能なオプションが既に生まれています。これまで、警察車両の無線の高機能化や小型化で同じような進歩がありました。細い線型のアンテナから、線が目立たないタイプのシャークフィンアンテナやソルトアンドペッパー
シェイカー型アンテナに置き換えられ、理想通りのコネクテッドカーを製造するうえで必要となるブロードバンド ワイヤレスや GPS/GNSS、その他の周波数帯域を扱うことができるようになっています。

 

当社の設計・開発チームでは、このような需要にお答えするために、より小型のアンテナに複数のポートと更に多くの周波数を追加するという技術的なチャレンジに継続的に取り組んでいます。

あらゆる環境への対応

工場や農場、そしてヒトの手首に至るまで、あらゆる場所にIoT デバイスが必要となっています。 デバイスがデータを確実に記録して伝送できるようにするには、様々な想定外の環境に耐えられるようにデバイスを設計する必要があります。

 

IoT デバイスの設計者は、それぞれの用途に対応したアンテナを始め各種コンポーネントを幅広い製品群から選定することになります。TE はコネクティビティ ソリューション プロバイダとして、温度、湿度、振動、衝撃など、コンポーネントの性能を脅かす可能性のある環境条件への耐性を確保するため、自社の各種コンポーネントに対して厳格な試験を実施しています。

 

カスタマイズも IoT 用途の重要な部分であり、それぞれに独自の動作環境要件があります。例を挙げると、住宅地域に面している屋外配電設備にアンテナを必要としたケースにおいて、お客様と、当社の担当チームが共同で作業を進めたことがあります。そのお客様の要求は、野球のバットやスケートボードの直撃にアンテナが耐えられることでした。当社のエンジニアは、そうした耐久テストに耐えられる小型で頑丈なドームアンテナを開発しました。

 

また、弊社では、医療技術業界のお客様から、ワイヤレスのウェアラブル式非侵襲型治療デバイスの開発についてご相談を受けました。当社では、携帯電話のように多周波数帯域で 4G LTE によるコネクティビティを提供するカスタム アンテナを、腕時計サイズのデバイスに組み込めるように設計いたしました。

消費電力と熱管理

広い周波数帯域に対応し、優れた信号カバレッジを実現しようとすると、デバイスの消費電力が増加してしまいます。 一般的に、電力消費量が多いほど、多くの熱が発生してしまいます。

 

小型デバイスと組込みの用途では、放熱のためにファンを使用することはできません。そのことからコンポーネントメーカーでは、回路基板レベルで放熱して安定した性能を確保する多機能構造設計を採用しています。

データ処理とストレージのソリューション

数百万台の接続されたデバイスをワイヤレス ネットワークに追加すると、クラウドや中央のデータ センターに送信する必要があるデータが大幅に増加してしまいます。 データ センターとクラウド コンピューティングのプロバイダは、こうしたデータ量の急激な増加に対処するために、容量を拡張しています。このようなケースでは、堅牢なアンテナ伝搬と優れた MIMO(Multi Input Multi Output)無線通信に相関関係がないと、ハイスピード
ネットワークでは遅延が少なくても、中央のサーバやストレージと、リアルタイムの安全対策アプリケーションや基幹アプリケーションに接続した IoT デバイスとの間に通信遅延が発生するリスクが高まります。

 

ミッションクリティカルな IoT 用途の増加に伴い、データ処理とストレージを IoT デバイスの近くで行うことができるエッジ コンピューティング ソリューションに対する需要も増加しています。このようなエッジ
ネットワークの構築には、これまでにない新たな重要な事項の検討が必要です。温度と湿度が適切に管理されている中央のデータ センターに比べ、現場の機械室に収容されているデータ
インフラは、より過酷な環境にさらされることが考えられます。その結果、ネットワークの設計では、管理水準が低い (より過酷な) エッジの環境に適合した頑丈なケーブルとコネクタを選定する必要があります。

 

IoT では、十分なインテグレーションと最適化を行ったコネクティビティ インフラが必要です。そのためTEでは、アンテナやセンサなどインテリジェントなデバイス設計を可能にするコンポーネントに加えて、IoT 製品に利用可能なケーブルやコネクタをご提供しています。

データ センターのラック ルームで作業するエンジニア。

今後の IoT アーキテクチャへの連携

以上のように、ハイスピード ネットワークは IoT の飛躍的な発展を促し、スマートシティやファクトリーオートメーション、自動運転車といった次世代の取組みが現実のものになりつつあります。 スマート シティ、完全自動化工場、自動運転車の展望が現実味を帯びてきました。


高速なネットワーク自体は、相互接続された世界を生み出しません。IoT が持つ可能性を最大限に引き出すには、自治体、通信会社、デバイスメーカー、ビルのオーナー、そしてTEを始めとするコネクティビティの専門家によるコラボレーションが求められます。より高速で高機能なワイヤレス ネットワークによってもたらされる新たなビジネスチャンスと、関連する課題に確実に対応できるよう設計された新しいエコシステムを作り出す必要があるのです。

著者について

Mike Tryson, VP & CTO, TE Data & Devices

Mike Tryson

Mike Tryson は、TE のデータアンドデバイス事業部で VP 兼 CTO を務めています。同氏は、データアンドデバイスのエンジニアリング チームや戦略を統率し、世界中のお客様と協力して相互接続のソリューションとアーキテクチャを開発しています。同氏は2011年にTEに入社し、25 年間のテクノロジー リーダーシップの経験を携えデータ通信市場に技術イノベーションをもたらした実績があります。