海中測定用途の LVDT センサ

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正確性・信頼性・耐久性

深海で運用される重要なシステムの性能を正確に測定できるのは、海中の過酷な条件に耐えるように特別に設計されたセンサだけです。

どのようなセンサであっても、海中環境で適切に機能するのは非常に困難です。 特に、20 年もの長期にわたる水中での稼働が見込まれるとなれば、その間、故障せずに動作し続けるのは極めて難しくなります。海中環境では、海深 15,000 フィートで約 7,500 psi の外部圧力がセンサに加わります。高圧深海環境のセンサの多くは、ある程度時間が経つと故障し、膨大なコストをかけて交換しなければならなくなります。センサの交換にかかるメンテナンス コストが、センサ本体のコストよりも高くなるのは珍しくありません。こうしたことから長期のセンサ寿命が、多くの用途で動作仕様の 1 つとして、求められています。さらに海水は、海深に関係なく、センサの金属部分を腐食させます。海水中での酸素、温度、pH、塩素、生物活動、導電率、流速のレベルは一様ではなく、こうした条件が腐食をさらに加速させます。凹み、すきま腐食、粒間腐食が発生し、センサの故障を引き起こします。

温度、塩度、酸素レベル、海深に応じて、海中環境で正確かつ信頼性の高い性能を発揮できるのは、LVDT しかありません。

淀んだ海域や汚染された海域が硫酸塩還元細菌を増加させ、センサ材料の性能に影響を与えることは珍しくありません。 海水は導電率が高く、マクロセル腐食や電解腐食を促進します。腐食は温度上昇を招き、その結果、さらに腐食が進みます。微生物によって誘発される腐食も非常に深刻な問題です。センサの動作条件や構造で使用される材質 (特に低グレードのオーステナイトステンレス鋼) はさまざまで、それに応じて性能が変わるため、センサの動作は微生物による腐食の影響を必ず受けます。これは材料劣化に関わる腐食プロセスです。通常は、溶接ジョイントで発生し、早めにチェックして処理をしないと溶接部に問題が生じます。圧力や海水の影響を受ける海中での用途では、信頼性の高い動作を実現するのが容易ではなく、特別な対応が必要になります。温度・塩度・酸素レベル・海深に応じて、海中環境で正確かつ信頼性の高い性能を発揮できるのは、特殊な合金によるハーメティック シールされた LVDT (線形可変差動変圧器) しかありません。

TE の線形可変差動変圧器 (LVDT)
TE の線形可変差動変圧器 (LVDT)

LVDT とは、本体と機械的に連結された物体の直線運動を対応する電気信号に変換する電気機械センサです。 LVDT リニアポジションセンサはさまざまな測定範囲で利用でき、1 インチの数百万分の 1 のわずかな動きから、±20 インチの動きまで測定できます。図 A に代表的な LVDT の構成部品を示します。変圧器の内部構造は、同一の方法で巻かれた 1 対の二次巻線と、それらが対称になるように中央に置かれた一次巻線で構成されています。コイルは、耐熱ガラス強化ポリマの中空の一体型形状の周りに巻かれた上で、湿気を防ぐためにカプセルに密閉され、高透磁率磁気シールドで全体をおおわれてから、ステンレス鋼でできた円筒形のハウジングに動かないように収められています。このコイル アセンブリは、通常、位置センサの定常要素です。動作時には、LVDT の一次巻線は適切な振幅と周波数の交流電流によって通電されます。これは一般に「一次励磁」と言われます。LVDT の電気出力信号は 2 つの二次巻線間の差動 AC 電圧です。これは LVDT コイル内の芯線の軸の位置によって変わります。通常、この AC 出力電圧は、適当な電子回路によって使いやすい高レベル DC 電圧または電流に変換されます。

LVDT センサ

図 1: LVDT を環境的に堅牢にしているさまざまな特徴がよくわかる断面図。

ハーメティック シールされた LVDT

腐食性の媒体あるいは圧力のかかる媒体にセンサが囲まれる用途では、外部媒体の巻線への侵入を確実に防止するようにハーメチック シールされた LVDT を推奨します。水や化学物質が侵入すると、センサの耐久性や信頼性が低下するからです。
このタイプの LVDT は、316 ステンレス鋼かスーパー ニッケル合金のいずれかでできた厚肉の金属ハウジングと一体型金属ボア ライナを持つ、ハーメチック シールされたアセンブリであることが特徴です。この構造では、周囲の媒体が巻線に混入するのを防ぎながら、芯線は自由に移動できます。
頑丈なハウジングに加え、ボア ライナとエンド ワッシャーが溶接されてハーメチック シールされているため、酸化によって漏れが起きる心配がありません。センサ コイルは、耐熱ガラス強化ポリマの中空の一体型形状の周りに巻かれた上で、湿気を防ぐためにカプセルに密閉され、高透磁率磁気シールドで全体をおおわれてから、ステンレス鋼でできた円筒形のハウジングに動かないように収められています。過酷な環境での用途では、さらに特殊なポッティング樹脂でコイル巻線を保護したり、樹脂を封入する場合があります。
リードを、ガラス封止型ヘッダまたは圧縮ブッシングで密閉したり、ステンレス鋼シースやテフロン コーティングでおおうことも可能です。これによって厳しい環境でも、接続が阻害されることがありません。ハーメティック シールされた一般的な LVDT は 3000 psig までの動作圧力に耐えることができます。ハーメティック シールされた構造であれば、芯線は 400°F までの温度に耐えます。 

特別なハウジング材質

304 や 316 などの一般的なステンレス鋼の多くは、海水に直接接触して動作するセンサでの使用に適していません。海中の環境に耐えるには、海水に対する耐薬品性の高い特殊な合金 (チャート 1 参照) で LVDT ケーシングが作られている必要があります。このような超合金を使うことによって、デバイスが海水に完全に接触した状態で、最大海深 15,000 フィートで約 7,500 psi の圧力を外部から受けても、LVDT アセンブリは長期耐用年数の要件を満たします。十分な信頼性を持つ LVDT アセンブリの信頼性をさらに高める材質です。海中でハードウェアを交換するコストを考えると、信頼性は極めて重要です。

 

水のタイプ 17-4PH ステンレス鋼 316L ステンレス鋼 ニッケル合金 625
淡水 はい はい はい
脱イオン水 いいえ はい はい
地下水 いいえ はい はい
汽水 いいえ はい はい
海水 いいえ いいえ はい

浅く暖かい水域ではモネルが適しています。モネルの金属成分が表面での海洋生物の発生を防ぐからです。浅くて暖かい水域では、ステンレス鋼のハウジングと芯線キャリアの寿命はあまり長くありません。合金 400 は、微生物によるピッチングや攻撃に対して優れた抵抗性を持つニッケルベースの特殊な合金です。酸素レベルの高い、浅くて暖かい水域で動作するセンサに有効です。水温が約 5°C で 2000 フィート以上の深さであれば、ステンレス鋼も利用できます。

7500 フィートの深さで 3500 psi を超える外部圧力での海中用途では、インコネルが優れた耐腐食性を発揮します。ニッケル、クロミウム、モリブデンの含有量が多いためです。

耐圧性と耐腐食性に優れた合金 718 で設計された LVDT アセンブリは、デバイスが海水に完全に接触する状態が何年も続いても、高い信頼性を維持します。

これらの合金はステンレス鋼よりもコストがかかりますが、酸化や還元の影響を受けず、局部腐食を起こしません。

LVDT の注目点

  • Macro Sensors SSIR 937 シリーズ水中/海中 LVDT 位置送信機は、7,500 psi までの水圧の深海環境での動作用に特別に設計された LVDT の 1 つです。この LVDT は、特殊な合金ケースに収められ、海深 15,000 フィート、約 7,500 psi の外部圧力において MTBF (平均無故障時間) が 100 万時間を超えるという長期動作での高い信頼性を実現します。
  • Macro Sensors は、海水用、防腐仕上げ、高圧、スプリング式の LVDT で、5,000 psi で圧力バランスされたオイル充填式コンテナ用に設計されています。この LVDT アセンブリは、316SS および合金 718 による設計によって耐圧性と耐腐食性を実現します。デバイスが海水に完全に接触する状態でも動作し続け、最低寿命の要件を必ず満たします。LVDT 設計の重要な要素は、漏れのない圧力シールです。シールの状態は、ヘリウム質量分析器の漏えい試験によって検証されます。 

LVDT リニアポジションセンサは、沖合プラットフォーム・脱塩システム・係留ケーブル・海底坑口・石油ガス収集システムの用途で、制御および安全機能の 1 つとして、状態モニタシステムで広く活用されています。 稼働時には、潮流によって最大 1,000 フィートまでのさまざまな位置でセンサが海水に浸漬される可能性があります。LVDT の精度と長期にわたる稼働は、特に構造的な動きをモニタするために必要であり、沖合石油採掘プラットホームにおけるパイプライン・デリック・係留設備・チョーク バルブ・伸び計、およびその他重要な高応力部材の長期 FEA (有限要素解析) に使用されます。たとえば、石油採掘プラットフォームの構造部材のミクロひずみまでの拡張の測定に海中 LVDT を使用することができます。石油採掘プラットフォームが移動していないことを確認するため、2mm 未満までの動きを測定します。海中 LVDT は、チョークやバルブのステータスをモニタ制御して必要な位置フィードバックを提供し、「海中クリスマス ツリー」を利用した適切なガスまたは石油フローを実現するためにも適しています。海中クリスマス ツリーとは、油井用のバルブ、スプール、フィッティングのアセンブリを指します。構造が飾りを付けたツリーに似ていることからこう呼ばれます。その機能は石油やガスの油井からの放出を防止することです。同時に、油井からの流体の流れを調整します。

クリスマス ツリーのバルブやチョークは、海底から石油を運ぶ際のオイル パイプの開閉に使用されます。 それらは液圧式アクチュエータまたは電気式アクチュエータのいずれかによって遠隔制御されています。位置フィードバックは、海中制御モジュールの一部としてチョーク ステータスをモニタおよび制御するために必要になります。バルブ アクチュエータに搭載された単一の LVDT または冗長 LVDT は、チョークが閉じられるときにフローが完全に停止していることを確認するために使用されます。チョークを完全に閉じないと、近年メキシコ湾で発生したような環境災害に至る可能性があります。海中チョークにはいくつかのサイズがありますが、通常、フル ストロークは 2~12 インチです。また、LVDT は海中タワーでの安全ケーブルの拡張モニタにも使用されます。掘削プラットホームの退避や油井の閉鎖につながる過酷な気候や地震の際に重要な情報を提供します。この用途は、石油会社や保険会社によって定められた安全や環境の政策の結果として生じたものです。

要約

負荷システム・海中係留ケーブル・制御バルブ・チョーク・蒸水工場・プラットホーム安定などの用途によって海水に接するセンサの需要が増加するとともに、センサを指定する際に海水の環境、位置、状態を考えることが重要になっています。無故障の稼働を確実にするため、高圧や可変的な腐食特性に耐える素材を慎重に選択する必要があります。場所によっては、特に海底では、故障したセンサを交換するためのアクセスが容易ではなく、大きな費用とダウンタイムが必要になります。したがって、長期的な所有コストを考慮する必要があります。海中 LVDT の性能には標準的なユニットと同様の高い信頼性があり、同時に、標準的なユニットよりも優れた海水に対する耐薬品性を備えています。したがって、信頼性の点で劣る線形位置技術 (海中モニタリングシステムにおける位置測定用ポットおよび磁気限定センサなど) の代用として普及が進んでいます。